
ドイツ語学習者の鬼門のひとつとも言える「分離動詞」。
英語にも日本語にも無い、独特の構造をもつ分離動詞は、もともと別で使われていたものがセットになって意味を成すため、ひとつの動詞として認識されるようになったと言われています。
今回は、このドイツ語の分離動詞を使いこなすために、前綴りの基本イメージからいつ分離させて使うのかまで、例文を用いてご紹介していきます。
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目次
分離動詞とは
基本となる動詞に、接頭辞(前綴り)をつけて特定の意味を加えるもの「複合動詞」といいます。
英語にも、動詞に im- や ex- などをつけて意味を拡張させるものがありますが、造語力の高いドイツ語には、こういった「複合動詞」が非常に多く存在します。
そして複合動詞のうち、前綴りを分離させて用いるものを「分離動詞」、分離しないものを「非分離動詞」といいます。
分離と非分離の両方の用法をもつ動詞もありますが、ドイツ語の辞書では、分離動詞であることが分かるように「ab | fahren」や「auf | machen」のように前綴りと基礎動詞の間が縦線で区切られているのが一般的です。
この分離動詞により、定動詞が最後に置かれるというドイツ語の文章において、「最初に登場する動詞で読み進めていると、忘れた頃に前綴りがやって来る」なんてことがよくありますので、注意が必要です。
最後まで気を抜けないという点では、結論が文末に来ることが多い日本語と似ていると言えるでしょう。
分離動詞
Der Zug fährt ab! Beeil dich!
(電車が行っちゃうわ! 急いで!)
分離動詞の使い方については、のちほど詳しくご説明します。
非分離動詞
前綴りと分離させずに用いられます。
Wir möchten Nick gern als Mitarbeiter behalten.
(私たちはニックをスタッフとして手放したくない。)
分離・非分離動詞
意味によって、分離と非分離の両方の使い方がある複合動詞です。
Fährt der Zug in Hanau durch oder hält er?
(電車はハーナウを通過しますか、それとも停まりますか?)
Wir haben gerade einen Tunnel durchfahren.
(私たちはちょうどトンネルを通り抜けた。)
前綴りの基本イメージ
前綴りは、漢字の「偏」のように必ず基本となる意味を持っていますので、それを覚えておくことによって文意を推測しやすくなる場合があります。ここでは、その大まかなイメージを挙げておきます。
また、分離動詞は必ず前綴りにアクセントが置かれます。
ab | 分離 | abfahren:出発する |
an | 接触 | ankommen:到着する |
auf | 開いて | aufmachen:開ける |
aus | 中から | aussteigen:降りる |
ein | 中へ | einsteigen:乗る |
nach | 方向 | nachsehen:調べる |
vor | 前に | vorhaben:計画する |
durch | 通って | durchfahren:走り抜ける |
bei | 近接 | beiliegen:添付されている |
mit | 一緒 | mitkommen:一緒に行く |
分離動詞の人称変化
分離動詞の人称変化は、前綴り(接頭辞)の種類に関係なく、基本となる 動詞の人称変化 に準じます。
◆ abfahren「(乗り物が)出発する」
- ich fahre . . . ab
- du fährst . . . ab
- er / sie / es fährt . . . ab
- wir / sie fahren . . . ab
- ihr fahrt . . . ab
◆ fahren「(乗り物で)行く」
- ich fahre . . .
- du fährst . . .
- er / sie / es fährt . . .
- wir / sie fahren . . .
- ihr fahrt . . .
分離させるのはいつ?
ドイツ語では、話し言葉は 現在完了 を、書き言葉では 過去形 が使われるのが一般的です。
さらに、分離動詞を分離させるのは「現在形」「過去形」「命令形」のときのみで、助動詞・現在完了・過去完了・副文など、定動詞が文末に置かれる場合は、分離動詞は結合したままの状態で用いられます。
それでは、例文で詳しく見ていきましょう。
平叙文
助動詞を伴わない現在形と過去形では、前綴りが分離します。
<平叙文の分離動詞>
主語 + 基礎動詞 +(目的語 や 形容詞など)+ 分離前綴り
Er steht morgens um 6 Uhr auf.
(彼は毎朝6時に起きる。→ 現在形)
Die Sitzecke nimmt viel Platz im Zimmer ein.
(シッティングエリアは室内の多くを占めている。→ 現在形)
Sie sah ihn voller Überraschung an.
(彼女は驚きに満ちた表情で彼を見た。→ 過去形)
助動詞
助動詞を伴う場合は定動詞が文末に置かれるため、分離させずに用いられます。
Wir wollen die Sache lieber unter uns abmachen.
(私たちはその件を内々で処理したい。)
Wir können uns ausruhen, nachdem wir den Gipfel erreicht haben.
(頂上に着いたら休憩することができます。)
・ausruhen:休む、休憩する
・der Gipfel:頂上、頂点、絶頂
・erreichen:到着する、達する、届く
現在完了・過去完了
現在完了 や 過去完了では、前綴りは分離しません。
Ich bin mit einen Deutschkenntnissen immer noch nicht zufrieden.
(自分のドイツ語力にはまだまだ満足していません。→ sein 支配)
Er habe sie nicht eingeladen.
(彼は彼女を招待しなかった。→ habe 支配)
Emily hat ihr Studium als Jahrgangsbeste abgeschlossen.
(エミリーは大学を首席で卒業した。→ haben 支配)
Sie hatte trotzdem die Hoffnung nicht aufgegeben.
(それでも彼女は希望を持つことを諦めなかった。→ haben 支配)
関連記事:【trotz と trotzdem の違い】ドイツ語トレーニング
・die Kenntnis:知識、学識、情報
・zufrieden sein:満足している、嬉しい
・abschließen:締めくくる、終える、鍵をかけて閉める
・das Studium:大学での勉強
・trotzdem:〜にもかかわらず、(前文を受けて)それでも
命令法
基礎動詞を文頭にし、前綴りを文末に置きます。
Pass auf, dass du die Vase nicht fallen lässt.
(花瓶を落とさないように気をつけなさい。)
Stehen Sie bitte vom Stuhl auf.
(椅子から立ってください。)
Sie に対する命令文は、正確には 接続法1式 の要求話法になります。
・aufpassen:気を付ける、注意する
・aufstehen:立ち上がる、起きる、ベッドから出る
副文
副文では、定動詞が文末に置かれるため、分離動詞を結合したまま人称変化させます。
Kannst du mir zeigen, wie man die Spülmaschine anstellt?
(この食器洗い機のスイッチの入れ方を教えてくれる?)
Ich muss unbedingt zum Auto zurück, weil die Parkuhr gleich abläuft.
(駐車メーターがそろそろ切れるので、すぐに車に戻らなければならない。)
zu 不定詞
zu 不定詞として分離動詞を使う場合は、前綴りと基礎動詞の間に zu を置いて一語として使います。
Hör auf, meine Schwester anzumachen!
(私の妹にちょっかいを出すのはやめて!)
Er hat versprochen, mich sofort anzurufen.
(彼は私にすぐ電話をすると約束した。)
・jdn. anmachen:ちょっかいを出す、からかう
・jdn. anrufen:人に電話をする
疑問文
決定疑問文の場合は 基礎動詞を文頭に置き、補足疑問文の場合は疑問詞を文頭に置きます。
Geht ihr heute Abend aus?
(君たち今夜は出かけるの?→ 決定疑問文)
Hast du schon etwas vor?
(何か予定ある?→ 決定疑問文)
Wer nimmt an der Party teil?
(誰がパーティに参加するの?→ 補足疑問文)
Wann kommt dieser Zug in München an?
(この列車は何時にミュンヘンに着きますか?→ 補足疑問文)
Bist du wohlbehalten zu Hause angekommen?
(無事に家に帰れましたか?→ sein 支配)
関連記事:【疑問文のつくり方/疑問代名詞・疑問副詞】ドイツ語トレーニング
・ausgehen:出かける
・vorhaben:〜するつもりである、〜しようと考えている、予定している、計画を立てる
・teilnehmen:参加する
・wohlbehalten:無事に(英語の safe and sound)