「パンの種類の多さ」、「国民一人当たりのパンの消費量」共に世界一といわれるパン大国のドイツ。
バーデン=ヴュルテンベルク州南部に位置する街の「Ulm ウルム」は、理論物理学者アインシュタインの出生地として知られ、教会建築としては世界一高い尖塔をもつウルム大聖堂などがあります。
今回は、ドイツのウルムにあります、人類の食の歴史を語る上で欠かせないパンに特化した「パン文化博物館」をご紹介したいと思います。
6000年のパンの歴史
博物館の入り口でいただいた資料によりますと、この「パン文化博物館」は1955年、当時製パン原料の製造卸売業者として実力者であったアイゼーレン親子(父:ヴィリー、息子:ヘアマン)によって法人として設立されたのだそうです。
開館から30年近くは、アイゼーレン親子の私財のみによって運営されていましたが、1978年に息子のヘアマンが独立公益財団法人を設立し、1991年からはこの財団法人のもとに置かれています。
▼ パンをモチーフにした絵画が多数。ピカソやダリ、シャガールなどがあります。
小麦とパンのイメージでしょうか、落ち着いたイエローの壁で統一されています。
▼ パンの原料となる、小麦を挽くための道具の変遷の歴史が分かります。
▼ 古代の人々のパン作りの様子を再現したジオラマです。
▼ 聖書にちなんだ絵画が多数展示されていますが、ユダヤ・キリスト教において、パンは「イエス・キリストの身体」「魂の糧」の意味で使われるほど重要であり、生命の象徴とされています。
▼ ドイツパンを代表する 「Brezel ブレッツェル」(英語:Pretzel)の模型が掛けられていました。
ブレッツェルが何故あのような形状なのかと申しますと、これには諸説ありまして、
- 窃盗を犯したパン職人が、領主から「1つのパンの角度から太陽を3度見る事が出来れば牢屋に入らなくてよい」といわれ、これをクリアするために作られたという説
- 祈りを捧げている修道士の姿を模したものという説
- キリスト教の三位一体を表している説
など、未だはっきりしたことは分かっていないそうです。
▼ パンのスタンプのコーナー。
パンの焼き窯が共同だった時代、どの家のパンかが分かるように生地にスタンプを押していたそうです。
▼ 「食糧不足(飢餓)の世界地図」
「パンの欠乏は飢饉を意味する」ということで、世界の食糧事情についての資料が展示されています。
▼ 「世界にパンを」のポスター
▼ 第二次世界大戦当時のパンの配給券です。
▼ 毛沢東の社会主義政策「大躍進政策」によって、中国国内において大飢饉、産業・環境の大破壊を引き起こし、およそ7000万人もの人々が亡くなったといわれています。
▼ こんなところにトミー・ウンゲラーの絵が!
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、「ゼラルダと人喰い鬼」や「すてきな三にんぐみ」などで知られる絵本作家さんです。2019年に亡くなられました。
最後に
私は実際にこの博物館を訪れるまで、「きっと焼きたてパンのカフェでも併設されているんだろうなぁ」と軽く考えていましたが、食文化としてのみならず、宗教、芸術、政治的プロパガンダなど、あらゆる角度からパンを考察した多くの史料により、今まで深く考えることのなかったパン文化について知ることができましたので、私にとって大変貴重な博物間見学となりました。
ご興味のある方は是非一度足を運んでみてください。
▼ Museum Brot und Kunst パン文化博物館の公式サイト
https://www.museumbrotundkunst.de
おまけ
ウルムには「漁師の一角(Fischerviertel)」と呼ばれる水路が流れる地区がありまして、
「Schiefes Haus / シーフェス・ハウス」という、schief(斜めになった)の名の通り「傾いた家」があります。
建てられたのは1443年で、現在は「世界一傾いたホテル」としてギネスブックに登録されています。
もちろん内部は傾いておりませんので、ご安心ください(笑)。