【死刑執行人の家】ニュルンベルクに実在したフランツ・シュミット

Posted in ドイツ, 旅行記
©︎RIKA /ドイツ・ニュルンベルクにて

クリスマスマーケットめぐりで訪れた ニュルンベルク

街全体がクリスマス一色の中、観光案内所でいただいた地図に「死刑執行人の家」という、何とも興味を引かれる文字を見つけてしまいました。

聞くと、ニュルンベルクにかつて実在した死刑執行人「Franz Schmidt / フランツ・シュミット親方」の家が、現在は「Henkerhaus / 死刑執行人の家」として、法律に関する小さなミュージアムになっているとのことです。

土日のみの開館だそうなので、この日は残念ながら休館日でしたが、せっかくなのでお散歩がてら行ってみることにしました。

死刑執行人の家

今回ご紹介する「Henkerhaus」は、ニュルンベルクの旧市街を横切るペグニッツ川の中州の西端にあります。

この中州は「Trödelmarkt / トレーデルマルクト」と呼ばれる広場になっていまして、カフェ、宝石店、家具店、衣料品店、生花店などが立ち並ぶ、小さな島のような不思議な空間です。

▼ 冬の朝の雪景色ですとその様子が伝わりにくいのですが、普段は人通りも多く賑わっていて、春から秋にかけて晴れた日にはオープンカフェが出ています。

▼ 中州を「Maxbrücke / マックス橋」から撮影しました。

左手に見える木組みの家(1571〜)は、かつてワイン倉として使われていた建物で、現在は学生寮となっています。
その右隣りにあるのは、1320〜1325年にかけて建てられた Wasserturm と呼ばれる中世の給水塔です。

▼ 「Henkersteg / 死刑執行人の橋」へ移動します。Henker はドイツ語で「死刑(絞首刑)執行人」、Steg は「歩道橋、(比較的簡素な)橋」という意味です。

▼ 橋の真ん中辺りに立って、後ろを向いて撮影しました。

▼ 「かつて Henkerturm(ヘンカー塔)にちなんで名付けられた Bei dem HieserleinUnschlittplatz / ウンシュリット広場の帝国自由都市時代の呼び名)の歩道橋で、15世紀半ばの死刑執行人の住まいでした。」と書かれています。

ニュルンベルクの死刑執行人の橋

▼ 左奥に見えるのが「Henkerturm / ヘンカー塔」です。

▼ 「Henkerhaus」の入り口横にあるパネルです。ミュージアムのインフォメーションが書かれています。

▼ 建物の壁にはこんなものが。怖い。

フランツ・シュミット親方

ローテンブルク観光においても、私は「中世犯罪博物館」を見学しに行ったくらい若干怖いもの好きの気があるので、このフランツ・シュミット親方についても調べてみることにしました。

▼ 執行の際に刑吏が被るマスク

Franz Schmidt − フランツ・シュミット(1550〜1635)
ドイツに限らず、かつて刑吏は民衆から忌み嫌われ蔑視される存在とされていましたが、世襲制であったため、フランツは1573年に父親の後を継ぎ、生涯において計361人を刑場の露と消えさせました。

そして自らが行なった刑罰の執行日、罪人の名前、罪状、執行方法などの詳細な記録が、貴重な史料として「ある首斬り役人の日記」のタイトルで邦訳されています。

私自身も読んでみましたが、邦訳をなさった藤代一幸先生の解説によると、剣による斬首と縄による絞首では天と地ほどの差があったそうで、「お慈悲をもって斬首の刑に処した」と綴られていました。当時としては、苦しまずに死ねる上等な刑として認識されていたようです。

斬首刑は失敗すると罪人がさらに苦しむことになり、熟練の技が必要だったためこうしてプロがいたわけですが、18世紀以降はギロチンがその役目を担うことになりました。

そしてフランツは仕事に対する意識がとても高かったそうで、処刑のときに手元が狂うからとお酒は飲まず、さらには罪の重さと量刑が釣り合うように、フランツ自身が考案した刑罰もありました。

刑の執行には人間的感情を一切挟まず、自分の親戚だからといって手を抜くこともなかったと伝えられています。

そして特筆すべきことがもう一つ。

13世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパで魔女狩りが盛んに行われていたことは有名ですが、ニュルンベルクには魔女狩りによる刑死者の記録がひとつもないことが分かっています。

これは魔女裁判に疑問をもったフランツが、刑の執行停止を市会に要請し続け、遂には審理が差し戻されるに至ったという経緯があったからだそうです。

晩年、フランツは67歳で息子に職を譲って引退し外科医となりましたが、処刑人は人体に精通している必要があったため、その知識を生かしてのことでした。

ちなみにドイツ語には „Scheren Sie sich zum Henker!“ という、直訳すると「処刑人のもとでちょん切れてしまえ」つまり「くたばっちまえ!」という Henker を使った表現があります。
(※ 良い子でなくても使わないでね。)

おまけ

ダークなお話が続きましたので、ここで口直しといたしまして、ニュルンベルクで私が入ったカフェを3軒ご紹介します。(このタイミングが適切かどうかは不明ですが)

▼ ケーニヒ通りから少し入ったところにある「Black Bean」さんです(チェーン店らしい)。イタリアンベーグルとホットチョコレートをいただきました。

▼ 「死刑執行人の家」のそばにある「 Café am Trödelmarkt 」さんです。
店員のお姉さんが雪かきをしていたところに私がにじり寄っていくと、笑顔で中に入れてくれました。

▼ 開店したばかりなのでまだお客さんがいません。

▼ 温かいお紅茶とティラミスをいただきました。小さなスノーグローブに癒されます。

▼ おもちゃ博物館の近くの「Neef Confiserie Café」さんで、ショーケースの中で一際キラキラしていた、大きなラズベリーのタルトをいただきました。
甘酸っぱいラズベリーはもちろん、チョコレートの層に香ばしいナッツがたっぷりでとても美味しかったです。

最後に

いかがでしたでしょうか。日常生活の中で、「刑吏」という職業について触れる機会はそうそうないと思いますが、皆さんもニュルンベルクを訪れた際には、ペグニッツ川の美しい風景を見ながらこの死刑執行人の橋を渡ってみてください。

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