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ドイツ人の主食のひとつ、じゃがいも。
ドイツのみならず世界中で栽培され、何と1000種類以上もあるといわれています。
今回はそんなじゃがいもについてとことん掘り下げている、ユニークな「ミュンヘンじゃがいも博物館」をご紹介したいと思います。
私が訪れたのは2010年の冬。
予約が必要と聞いていたので、当時宿泊していたミュンヘンのホテルから電話をかけてみたところ、「18時までならいつでもいいですよ」とのこと。
じゃがいも博物館のあとはドイツ博物館を見学したかったので、早速午前中に出発しました。
ミュンヘン中央駅からUバーンに乗って、Ostbahnhof(ミュンヘン東駅)から5分ほど歩くと、L字型のオフィスビルが見えてきます。
まずは受付の男性にご挨拶。
博物館の見学に来たことを告げると、1階の展示室入口に誘導しながら、パチッパチッと電気を点けてくれました。
なるほど、だから予約が必要なのですね。
ちなみに入場は無料でした。
奥深きじゃがいもの世界
この博物館は、じゃがいもの加工食品で有名な Pfanni プファンニ社の経営者である Otto Eckart オットー・エッカート氏が1996年オープンさせました。
▼ 爽やかな配色と、すっきりと洗練されたデザインの展示室が印象的です。
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▼ まずはじゃがいもの歴史から。インカ帝国まで遡ります。
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じゃがいもの栽培は、紀元前5000年頃に南米の南アンデス地方で既に始まっていたといわれており、
大航海時代の16世紀にスペイン人によってヨーロッパにもたらされました。
まだ科学が発達していない時代、聖書に載っていないこと、土の中で不気味に増殖していくことなどから「悪魔の食べ物」と呼ばれ、この根拠のない迷信によって、食用としてはなかなか普及しなかったそうです。
しかしじゃがいもは「寒冷に強い」「いつでも収穫できる」「小麦やとうもろこしに比べて戦争で踏み荒らされても被害が少ない」ということで利点も多く、プロイセン国王のフリードリヒ2世がじゃがいもの栽培を奨励しました。
これにより度重なる戦争や飢饉を乗り越え、国力を強化することに繋がったのだそうです。
ドイツにおいて、じゃがいもをナイフで切ることがタブーとされているのは、「十分に茹でられていない」ということで料理人を侮辱することなるからだといわれていますが、長い歴史の中でドイツの食生活を支えたじゃがいもに対する敬意の表れなのかも知れません。
▼ じゃがいもをモチーフにした絵画も多数。
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フランスにおいては、じゃがいも料理のアッシュ・パルマンティエの名前のもとになった農学者の Parmentier パルマンティエが、美しくて良い香りがするじゃがいもの花をルイ16世に献上したり、じゃがいも料理の晩餐会を開いたりして、上流階級に積極的にじゃがいもを宣伝したことで知られています。
かのマリー・アントワネットは、じゃがいもの花を髪に挿して舞踏会に出かけたことで、貴族の女性たちもそれを真似るようになり、フランス全土にもじゃがいもは広がっていきました。
▼ じゃがいもの栽培に関する古い資料も展示されています。害虫についての記述があるようです。
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ちなみに、最初にアンデスでじゃがいもを見たスペイン人が、ゴツゴツとした丸い形状がトリュフの一種だとしている記録が残っており、ドイツ語の Kartoffel は イタリア語でトリュフを意味する Tartufo が語源だといわれています。
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▼ 館内の一角には、じゃがいもの可愛いマスコットが。
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▼ 太る食事と、貧しい人の食事の比較。
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▼ 戦後の食料配給券も展示されています。
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万能選手のじゃがいも
▼ 化粧品、石鹸、アルコール飲料など、じゃがいもの商業利用例も展示されています。
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▼ Seife は石鹸、Puder はパウダーのことです。
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見学を終えて、お土産にポストカード、博物館のガイドブック、じゃがいものハンドクリーム、じゃがいものリキュールなどを購入しました。
最後に
普段の生活で当たり前に食べているものや使っているものは、「知りたい」と思わないとなかなかその歴史や価値に触れる機会が少ないものですが、そこには先人たちの知恵や試行錯誤、人間ドラマが隠されているものだと改めて感じました。
Das Kartoffelmuseum
Grafinger Straße 2, 81671 München